経理はお金を生まない?
「経理はお金を生まない。だから『そこそこ』でよい」
という主張を見かけることがあります。
はたしてこの主張は正しいでしょうか?
経理は売上を生まない、けれど
たしかに「経理」は新たな売上を生みません。経理に似た概念に「会計」もありますね。
経理や会計を強化すれば、
・売掛金の回収漏れを防ぐ
・与信管理によって貸倒れを未然に防ぐ
・経費や業務のムダを見つける
・節税策を検討する
等、無用な出費や損失を防ぐことはできるでしょう。しかし、これらの管理を強化しても、売上そのものを増やすことはできません。
だからと言って、「経理はそこそこでよい」という結論にはならないと考えます。
理由のひとつめは、利益を増やすためには、コストダウンや回収漏れ防止による「効率性アップ」が必要だからです。この点は言うまでもないでしょう。
理由のふたつめは、経理をおろそかにすれば財務が弱体化するからです。
売上を増やすには、「売上を生み出すためのカネの管理」である「財務」が必要です。財務が弱体化すると、最悪の場合は、経営判断を誤ったり黒字倒産するなどの”自爆”をするおそれもあります。
どういうことか説明します。
経理・会計・財務の違い
まず、「財務」とは何でしょうか? 「経理」や「会計」と比較してみましょう。
経理とは、現在の取引やいま手元にあるお金を把握・管理する業務と考えてください。経理業務を強化すると、与信管理による不渡り防止や現金過不足の防止により損失を減らせます。しかし売上が増えるわけではありません。
会計とは主に、すでに買ったモノや雇用しているヒトに対する支出と、その支出に対応する収入を集計をする業務と考えてください。会計業務を強化すると、支出や収入が明確化されて業務効率や収益性が判明したり、税制優遇等を活用して節税に繋がることもあります。しかしそのこと自体で売上が増えるわけではありません。
それに対して、財務とは、未来のお金の使い方や資金調達について計画する業務です。
企業は、市場や需要などのビジネスチャンスに対し、経営資源であるヒト・モノ・カネ・情報を投入して事業を行います。
その際、
- 経営資源に対してどれくらいお金を使うか、という中長期計画や年度予算(資金配分)
- そのために必要な資金の借入れや、返済のための借入金管理(資金調達)
- 中長期的な期間についての資金繰り管理(時系列管理)
が必要です。
これらの「財務」がうまくいくからこそ、事業を成り立たせるためのヒト・モノ・カネ・情報の体制が整います。そうして売上や利益が生まれるのですね。
財務をしっかりすれば、勘や経験に頼らない経営ができる
「財務なんてやっていないよ」という会社は、社長や経理担当者のKKD(勘・経験・度胸)で回しているはずです。
経理や会計をそこそこにして、データ収集を怠っていると、
- ヒト・モノ・カネ・情報にどれくらい資金を配分すればいいか、の判断ができない
- いくらの借入れをする必要があるのか、が不明確
- きちんと資金繰りが回るか、いつまでに資金調達すべきかが不明瞭
ということになってしまいますね。これでは目隠しをしたまま経営しているようなものです。
適切に資金配分の判断ができないと、
- 必要なタイミングで人材を採用しない、または過剰に採用してしまう
- 無謀な設備投資を行ってしまう、または必要な更新投資がされない
- 過剰に在庫を保有してしまう、または欠品してしまう
- 無駄に支払利息を払ってしまう
などの経営判断の失敗をしやすくなってしまいます。また、資金繰りの管理ができていないと資金ショートを起こします。いわば自爆です。
これらの失敗は、財務をしっかり行っていれば防げます。
財務は、経営のデータ収集と経営のシミュレーションと言えます。事実に基づいてシミュレーションするため、客観性があり合理的な判断ができるのです。その際のデータは、経理業務と会計業務で得たデータを使うことになります。だから、経理をおろそかにしてはいけないのです。
財務は、自社でするしかない
財務は、自社で行う必要があります。
言い換えると、税理士の先生は、財務をしてくれません。
- 「経営資源に対する資金配分」の判断は、言うまでもなく経営者の仕事です。
- 「借入れの実施」や「返済額の管理」は、経営者や経理担当者の仕事です。
- 「資金繰りが回るかどうか」は現在から未来に向けた話なので、「過去実績の集計を担当する税理士」とは相性が悪いです。
スピード感をもって合理的に経営を進めていくためには、自社で財務をする必要があるというわけです。
本当に注力したいのは「経営判断」
とはいえ、「財務などに労力をかけろ」と言うつもりはありません。財務等の業務は強化する必要はあるものの、作業は効率化・省力化されるべきです。
お金に関するITソフトやクラウドサービスはたくさんありますから、それらを活用して効率的・スピーディに情報を蓄積・分析していきましょう。
- 経理業務……販売管理ソフトを活用する。与信管理は、信用調査会社のサービスを活用する。
- 会計業務……会計ソフトで効率的に仕訳入力をしたり、クラウド会計による自動仕訳を活用する。経費精算はクラウドサービス(アプリ)を活用する。
- 財務業務……資金繰り管理アプリを活用する。借入金はExcelで一元管理する。
などです。
本当に注力すべきは
「自社がどんな戦略をとるのか」「そのために資金配分をどうするか」
などの経営判断です。
それを忘れないようにして、財務を強化していきたいですね。
関連記事:
月1〜2回、会社経営や人生戦略に役立つ情報をお届けしています。
メールマガジンの購読は無料です。お気軽にご登録ください。
有料でご相談・経営コンサルティングを承っています。