何%の値上げが必要?

原材料やエネルギーコストの高騰が止まりません。

私は 製造業さんとのお付き合いが多いですが
「値上げ見積もりは2度目です」「もう3度目です」「いやいや当社は4度目ですよ」
という話をちらほら聞いています。

値上げの見積書を作る際、悩むのは

「どれくらい値上げすればいいのか?」

ということではないでしょうか。

何%値上げすべきか

ときどき、「売価を何%上げるべきですか?」という相談をされることがあるのですが、その問いの立て方では、計算が大変です。

借入金の返済額」や「固定費」が払えるだけの粗利益(≒限界利益)が出るように売価を設定したら、結果的に ◯%の値上げ率になる

と考えると分かりやすいと思います。

値上げ交渉の考え方

値上げについては、

(1)絶対に譲れない価格
(2)目標価格

の2つを考えてみましょう。

(1)絶対に譲れない価格

⇒ 従来と同じ粗利益「額」となる値上げ

⇒ 「製造原価の上昇分」を上乗せした売価

・メリット :やむを得ない値上げ幅なので、得意先に受け入れてもらいやすい
・デメリット:家賃等の固定費の上昇分を賄えず、ジリ貧となる


(2)目標価格

⇒ 従来と同じ粗利益「率」となる値上げ 

⇒ 「新たな製造原価」を「従来の原価率」で割り戻した売価

なぜ従来と同じ粗利益「率」を目指すかというと、粗利益「率」を維持して、粗利益「額」を増やしておかないと、将来の固定費の上昇に耐えられないからです。

・メリット :収益性を維持でき、安定的な事業継続につながる
・デメリット:便乗値上げを疑われやすい

  • 価格交渉の際には、コストの上昇「率」で話を進めてみましょう。

最優先にすべきこと

最優先にすべきことは、「(1)絶対に譲れない価格」=「製造原価の上昇分」を上乗せした売価 を通すことです。

企業努力でどうにもならなかった原価上昇分は ”何が何でも” 従来価格に上乗せしなければなりません。

仮に粗利益の総額を計算してみると分かるのですが、利益率の低下はみなさまの想像以上に、経営を傾ける原因になります。

中小企業の現実

しかし、中小企業庁の調査によると、厳しい調査結果が出ています。

直近6ヶ月のコスト上昇分を
・満額 価格転嫁できた企業は たったの【13.8%】に過ぎません。
・逆に、全く価格転嫁できなかった企業が【22.6%】も存在します。

▼価格交渉促進月間(2022年3月)フォローアップ調査の結果について(PDF)
※業種ごとの生声も記載されています。

値上げを受け入れてもらうための工夫

値上げを受け入れてもらうには、工夫が必要です。

競合他社の値上げ幅を知る

原料費やエネルギーコストのコストアップを、売価に価格転嫁することは大切です。

でも、もし、自分の会社だけ「非常識な値上げ幅」だったら・・・?

企業努力不足や便乗値上げを疑われることは避けたいです。

競合他社や同業者がどれくらいの値上げをしているのか把握しておきましょう。

今後のためにも、得意先の担当者とコミュニケーションをとるなどして情報を得る手段は確保しておきたいですね。

『値上げの明細資料』を添える

競合他社や業界の動向を把握した上で、
見積書に対して『値上げの明細資料』を添えることをオススメしています。

企業努力で低減することが難しい製造原価、
たとえば、

・原材料費
・エネルギーコスト(電力や燃料費等)
・労務費

について、項目ごとに 従来/現在 の金額を併記した資料を作り、「客観性」や「合理性」の高い見積もりであることを示します。

<<メリット>>
自社の企業努力で吸収しきれないコスト増分の場合、
「下請法上の親事業者」は価格交渉に応じなければならないとされています。

コンプライアンスを重視している企業相手だと、原価の明細資料があれば格段に交渉がしやすくなります。

明細資料があると、得意先の担当者が
「自分の会社・上司に対して説明がしやすくなって」話がスムーズに進む効果もあります。

<<デメリット>>
・競合他社と明細を比較されてしまう
・資料が残るためじっくり検討しやすく、内容の揚げ足を取られてしまう
という点です。

明細資料を出す際は、得意先との関係性を考慮したうえで、記載内容を慎重にご検討ください。

値上げムードに乗り遅れないで

得意先のご担当者に拒否されるのが怖くて、心臓が潰れる思いをされている方も多いと思います。それでも、値上げを言い出せないまま、あなたの会社が潰れてしまっては元も子もありません。

幸い、世の中は値上げムードです。価格交渉するなら今がチャンスです。

見積もりの際は、単純な値上げ要求にとどまらず、顧客側にもメリットがあることをアピールしたいですね。

やむを得ない値上げだとしても、それによって今後、「品質・納期面・利便性などでいっそう高い価値を受け取れる」と信じてもらうに足る取り組みを示したいです。

それが企業努力だと、私は思います。

参考リンク

■ 中小企業庁

■ J-Net21「ビジネスQ&A」

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この記事を書いた人

林 めぐみ
林 めぐみ
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級

得意な業種:製造業・卸売業  得意なテーマ:経営全般・財務・IT

IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。

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