「いい会社は経理が強い」と言われる理由

「いい会社は、経理が強い」と言われることがあります。

(経理部の権力が強い……という意味ではありません。笑)

「経理が強い」とは、
たとえば、
・支払手続きまでの日数が早い
・月次試算表が早く完成する
・予算管理がきっちりしている
・時間に余裕を持って資金調達ができる
などです。

いったいなぜ、いい会社は経理が強いのだと思いますか?

経理が強いと、いい会社になる

様々な理由があると思いますが、要因の一つとして、
経理が強いと、いい会社になりやすい ということが挙げられます。

どういうことか、説明していきますね。

ご承知のとおり、経理は「会計」や「給与」に関する事務のことです。
それでは、そもそも、どうして企業は会計処理をしているのでしょうか?

「納税のため」「銀行に決算書を提出するため」「業績を確認するため」……など、様々な意見があると思います。

会計の目的は「経営関係者への情報提供」

会計の目的は、一言でいうと「経営関係者への情報提供」です。

会計には種類があり、大きく2つに分けることができます。
財務会計(制度会計、税務会計)」と「管理会計」です。

まず、財務会計は、社外向けの会計のことです。

財務会計(ざいむかいけい) 
企業などの組織が株主や債権者などの外部利害関係者に対して財務情報を提供することを目的として行う会計。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

中小企業の場合、主な外部利害関係者は、金融機関や税務署となりますね。
税理士に作成してもらう「決算書」が財務会計にあたります。利益を明らかにすることで、納税資料や融資判断に活用します。
決算書は税金計算に使用するため、税務会計と言うこともあります。また、決算書の作成は会社法により義務付けられていることから、制度会計とも呼ばれます。

納税や会社法の義務であることから、中小企業の会計は、財務会計(制度会計、税務会計)に偏りがちです

これに対して、管理会計は、社内向けの会計です。

管理会計(かんりかいけい)
企業などの組織の経営者や管理者に対して経営上の意思決定や業績管理に役立つ情報を提供することを目的とした会計。
予算管理・損益分岐点分析・原価計算などの手法を用いて経営管理に活用される。内部報告会計。

出典:デジタル大辞泉(小学館)

管理会計には、決算書の数字を活用することもありますし、その他の社内資料を使うこともあります。経営成績や財政状態を明らかにして、経営の次の一手をどう打つか?という判断に役立てます。経理が強い会社は、入金/支払い手続きや給与計算はサッと完了させ、管理会計まできっちりこなしているのです。

管理会計は義務ではありません。会社によっては、管理会計まで手が回らず、放ったらかしになっていることもあるでしょう。

経理が強いと、経営判断が迅速で明確になる

経営資源の基本要素は、ヒト・モノ・カネ・情報です。
「カネ」は経営を行う手段の一つであり、経営によって生み出された結果でもあります。

経理が弱いと、カネの情報=財務情報の提供が少なくなりますから、経営の「手段」も「結果」も不明瞭になります。これでは目隠しされたまま経営をしているようなものです。手探りで経営をしていると、経営判断はどうしても遅くなります。また、自信を持って決断を下すこともできませんよね。

一方、経理が強いと、経営判断に役立つ財務情報が潤沢に提供されます。

たとえば、地区ごとの売上高や得意先ごとの利益額、事業ごとの収益性、商品ごとの在庫回転率、などの情報があったらいいと思いませんか? また、貴社がいつごろ資金調達が必要になるのか、さらに、借入金を返済するために必要な売上高をご存じでしょうか。自社がどれくらいの設備投資をしてもいいのか(安全ライン)の金額なんかも分かったらいいですよね。

このような情報があると、経営上の意志決定は迅速で明確になります。おのずと経営戦略の成功率は上がり、いい会社になりやすいのです。

「経理」というと、予算や経費管理など経営の”守り”をイメージされがちです。
ですが「経理」は、利益拡大のための経営戦略や、設備や人材への投資判断など、経営の”攻め”を支える重要なポジションなのです。

経理を強くする方法

小規模企業の経理を強くするためには、経理担当者が一人いれば十分です。

昨今は、クラウド会計ソフトや 販売管理ソフトを安価に利用することが出来ます。
これらのソフトを活用すれば、少ない労力で、迅速で、比較的簡単に、必要な管理会計を行うことが可能となります。

たとえば、
■弥生販売には
・ 担当者別の売上高集計機能
・「得意先分類」機能(地域別や事業別にグループ分けして集計する機能)
・ 商品ごと粗利益の計算機能
などがあります。

■弥生会計プロフェッショナルには、
・部門(事業部)ごとに業績を集計できる機能
・過去5期の財務諸表を比較する機能
・損益分岐点分析(当期純利益がプラスマイナスゼロになる売上高の計算)
・キャッシュ・フロー計算書
などの機能がついています。
これらは、最初の設定をしてしまえば、簡単に見たい情報を確認することができます。

管理会計をするためには、もちろん経理や財務についての勉強が必要です。経営に関する情報提供はどこまでも極めることができますから、管理会計に終わりはありません。ですが、企業が成長発展するためには、今の貴社にとって必要な「経理力の水準」があります。

受注を拡大したければ、目標売上に必要だと思う分だけ営業部門を強化しますよね。生産量を増やしたければ、必要な生産能力になるように製造部門を強化します。同じように、「経営に関する意志決定を迅速化・明確化させたい」ならば、それに見合うだけ経理部門を強化する必要がある、と言えば分かりやすいでしょうか。

「経理力の水準」とは、簿記のレベルはもちろんですが、その他にも、試算表を作成する頻度や、地域別や事業別の収益性計算、資金繰り表の有無や作成レベル、予算管理の有無、借入金管理の有無なども考えられます。貴社の経営状態や課題によって、最低限できてほしい水準が決まります。

経理・財務スキルの全体像が知りたければ、経済産業省が策定した「経理・財務サービス・スキルスタンダード」という指針が役に立ちます。

大企業向けの資料なので、中小企業にとっては不要な部分も多いですが、参考にはなりますよ。
スキルレベルを判定してくれる検定試験もあります。

■経理・財務サービス スキルスタンダード

■FASS検定(経理・財務スキル検定)

目標とする水準さえ分かれば、あとは経理の勉強するなり、会計ソフトを刷新するなり、具体的な行動を起こすだけですね。

まとめ

現代は経営環境の変化が激しい時代です。人手不足だと思ったらコロナ禍で状況が一転したり、DXが叫ばれて顧客や競合企業のIT経営が進展したり、世界的に米中対立や脱炭素への動きがあったりなど、想像もつかないような出来事が次々に起こります。そんな不確実性が高く複雑な外部環境に対し、経営者はすばやく経営判断を下していかねばなりません。

この経営環境を乗りこなすために、貴社の経理も強くなりますように。
そして、貴社の経営を強靭化させましょう!

この記事を書いた人

林 めぐみ
林 めぐみ
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級

得意な業種:製造業・卸売業  得意なテーマ:経営全般・財務・IT

IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。

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