経営理念があると、組織が活きる
貴社では、経営者の経営哲学や大切にしていること、行動指針などについて、従業員さんと共有していますか?
言い換えると、経営理念は社内に浸透しているでしょうか?
目次
経営理念の意義とは
経営理念とは、企業の活動方針や存在意義を示す基本的な考え方のことです。
経営理念が明文化されていると、次の効果が期待できます。
①経営者向け
経営の軸や立ち返るべき原点ができ、経営判断で迷ったり苦境に立たされた際の道しるべとなる。
②従業員向け
行動指針が明確になり、従業員が自律的に行動しやすくなる。また、事業活動の意義が示されると、働くうえでの「誇り」の源泉となりモチベーションが高まる。
③社外向け
企業の想いや存在意義を伝えることができ、顧客や利害関係者からの共感を得られる。
経営理念を掲げておられる会社は、①の経営者向けや、③の社外向けを意識されていることが多いように思います。
しかし、②の従業員向けが重要なのです。
経営理念・企業理念・社是・社憲の違い
経営理念には、企業理念・社是・社憲などの類語がありますね。これらはどう違うのでしょうか。
結論から言うと、違いを一概に言うことはできません。なぜなら、企業によって指している内容が異なるためです。これらの言葉の意味について考える際は、「ミッション・ビジョン・バリュー」という切り口で考えると分かりやすいです。
経営理念には階層がある
ミッション・ビジョン・バリュー
ミッション・ビジョン・バリュー(MVV:Mission・Vision・Value)とは、経営学者のピーター・F・ドラッカー氏が提唱した概念です。
一般的には「ミッション→ビジョン→バリュー」の順番で言いますが、意味を考える上では「ビジョン→ミッション→バリュー」という階層で考える方が分かりやすいと思います。
- ビジョン ……自社が描く未来像や、到達すべき将来像(目指す社会や、自社がなりたい姿)
- ミッション ……自社の使命
- バリュー ……組織メンバーが持つべき価値観
- 企業には「ビジョン(理想の未来像や到達すべき将来像)」という大きな目標があり、
- それを実現するために、事業として今、「ミッション(自社の使命)」に取り組んでいて、
- 組織のメンバーは、ミッションを成し遂げるために同じ「バリュー(価値観)」を大切にしながら活動している。
というわけです。
時系列で表現するなら
- [バリュー]を大切にして活動し、
- [ミッション]を成し遂げて、
- [ビジョン]な未来を創る
となります。
その表現は、複数の階層にまたがっていませんか?
前述のとおり、経営理念 ・企業理念・社是・社憲の違いを一概に言うことはできません。「経営理念」、「企業理念」、「社是」、「社憲」、「スローガン」等は、ビジョン・ミッション・バリューのいずれか、または複数の階層にまたがる概念なのです。どの階層を語るのかは、企業によって異なります。ビジョン・ミッション・バリューの3つの階層をすべてカバーすることもありますし、1つの階層しか語らないこともあります。
では、他の表現はどうでしょうか。
「事業理念」は、ビジョンまたはミッションを指すことが多いです。
また、「お客様との約束」はミッションまたはバリューを指します。
このように、表現によって「ミッション・ビジョン・バリューのどの階層をカバーするのか」は様々なのです。
経営理念を明文化する際、大切なことは何だと思いますか?
それは、
- 誰に対して(従業員・お客様・取引先・株主など)
- ミッション・ビジョン・バリュー のどれを伝えようとしているのか
を経営者が理解することです。
たとえば、組織メンバーが持つべき価値観(バリュー)を従業員に浸透させたいのに、お客様に向かって一生懸命アピールしてしまっていませんか?
経営理念は、伝えるべき相手に伝わってこそ意味を持ちます。
「経営理念」と「組織活性化」には密接な関係がある
ミッション・ビジョン・バリューが組織に浸透することと、組織活動の成立には密接な関係があります。
アメリカの経営学者であるチェスター・バーナードが提唱した「組織成立の3要素」をご存じでしょうか。
組織が成立するためには、3つの要素が一定水準は必要である、とするものです。
- 共通目的(組織目的)
- 貢献意欲(協働意志)
- コミュニケーション(意思疎通)
「組織」とは、「何らかの目的を達成するために、2人以上の人間が協力して作業や活動をするための仕組み」のことです。皆で協力することによって効果的に成果を上げるわけですね。
管理者が都度、従業員に対して作業の指示をしてもいいのですが、それでは組織の力を引き出すことはできません。考え方や経験の異なる人々が一緒になって働いたり意見を交わしたりするからこそ、問題解決のアイデアが生まれたり、大きな課題を乗り越えられるのです。
共通目的(組織目的)
組織を活性化させるためには、まず共通目的(組織目的)を浸透させる必要があります。「皆で協力して、何を成し遂げたいのか」を明確化するのです。
具体的には、ビジョンとミッション(未来像と使命)を明文化して、従業員に伝える必要があります。企業としてどんな目標に向かって(ビジョン)、今何をすればいいのか(ミッション)を共有するのです。
企業としてのゴールや今すべきことの理解が深まることで、従業員が自律的に行動しやすくなります。さらに、ビジョンとミッションが従業員にとって社会的に意義があると感じられるものであれば、組織に所属することへの誇りが生まれます。定着率の向上やモチベーションアップにも繋がります。
貢献意欲(協働意志)
従業員がビジョンやミッションを理解し、貢献意欲(協働意志)を発揮する際は、バリュー(価値観)を共有しておきたいです。
たとえば、スピード感を大切にしている従業員と、じっくり丁寧な対応を大切にしている従業員がいると、お客様への対応にばらつきが出てしまいます。従業員にどんなことを大切にして活動してほしいか(価値観)を明示しておくことにより、組織メンバーの活動に一貫性が出ます。
ここで間違ってほしくないのは、価値観のすべてを統一するわけではない、ということです。それでは多様な人々が集まることによる組織活性化のメリットを殺します。そもそも人間は、それぞれの価値観や目的を持っているものです。個々人の思惑が異なっていたとしても、特定の目標に向かって協力し合うことはできます。
バリュー(価値観)を明文化する際は、「ビジョンとミッションを成し遂げるために、守ってほしいこと」に絞りましょう。
コミュニケーション(意思疎通)
ビジョン・ミッション・バリューを従業員と共有するためには、経営者と従業員でコミュニケーションを取る必要があります。年に1度の経営方針の発表会や、日々の朝礼などで、社長が何を考えて経営をしているのかを伝えましょう。
また、日報や提案制度、日々の雑談などを通じて、従業員がどんな想いを持って働いているかを汲み上げたいです。
経営者の想いや考えを情報発信することも大切ですが、それでは「命令」になってしまいます。双方向の対話をはかるからこそ、経営理念の浸透具合を知ることができますし、逆に従業員から教わることもあるでしょう。
日頃から社内の風通しをよくしておくと、自由闊達に意見交換をする企業風土が育ちやすくなります。すると変化の激しい経営環境の中でも、従業員・経営者の皆で知恵を出し合って苦難を乗り越え、チャンスを掴んでいけます。
まとめ
経営理念(ビジョン・ミッション・バリュー)が明文化されていると、組織成立の3要素である共通目的の浸透・貢献意欲の発揮・コミュニケーションの水準を高めることに繋がります。
従業員が自律的に行動できるようになり、定着率の向上やモチベーションのアップにも繋がります。また、経営理念を浸透させるために、経営者が従業員とコミュニケーションを取ろうと意識することに繋がるので、社内の風通しをよくなる助けになるのです。
経営理念の浸透により、個々の従業員の使命感が高まり、組織の一体感が生まれます。
つまり、組織が活き、組織一丸となって事業を推進できるようになるのです。
経営者の想いや考えは、言葉にしなければ伝わりません。また、経営者自身が気づいていない想いがあるかもしれません。
「経営理念は明文化していない」
「経営理念はあるけれど、絵に描いた餅になっている」
という企業様は、この機会にビジョン・ミッション・バリューを考え直してみてはいかがでしょうか。
参考文献・参考サイト
この記事を書いた人
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中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級
得意な業種:製造業・卸売業 得意なテーマ:経営全般・財務・IT
IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。
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