帳簿を見る目が肥えると、経営がよくなる
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昨日の日本経済新聞に、TKC全国会の特別対談が掲載されていました。
タイトルは「かつての大阪商人は、帳簿を見る目が肥えていた!?」
内容は次のリンク先で読めます。
要約すると、
- 帳簿をつけることで、自社の経営や会社の様子が見える。現在の課題や経営のヒントが見えてくる。
- 大阪商人は帳簿づけを通じて帳簿を読み、問題点や利益の源泉やどこに未来があるか等を察知していた。
- 井原西鶴は、
「帳簿をいい加減にしている人でまともに商売をした人はいない」と言い切っている。 - 長く堅実に続いている事業は、帳簿もしっかりしている。
というものです。私もまったく同感です。
帳簿づけで大切な3つのこと
「当社は、税理士に帳簿を委託しているから大丈夫!」と思った方はいませんか?
「税金の計算をする」という目的を果たすためなら、それでも構いません。しかし、帳簿を経営に活かすためには、それでは不十分なのです。
帳簿づけをする上で大切なことが3つあります。
- 帳簿を迅速につけること
- 帳簿をきちんと読み込むこと
- 正確に、分析しやすい形式で帳簿をつけること
この3つを守るからこそ、 自社の状況を客観的に捉え、いち早く現在の課題や経営のヒントを見つける事ができます。
そのためには自社で帳簿をつける(自計化をする)のが一番です。
1.帳簿を迅速につけること
今後の戦略を考えたいのに、数ヶ月前の状況がわかっても情報が古いです。翌月月初までには、最新の試算表を入手したいです。
自社だと、毎日帳簿をつけることが可能です。大変そうに思われるかもしれませんが、昨今はクラウド会計で経費精算アプリや自動仕訳が使えます。一部の処理はスマホで処理することもできます。昔よりラクに会計処理ができるようになりました。
これに対し、税理士に帳簿づけを依頼するとどうなるでしょうか。経理資料を受け渡しする効率を考えると、1か月分や数ヶ月分、長い場合は1年分の資料をまとめて送付する事になるでしょう。作業を溜めているのですから、それだけ試算表完成までにタイムラグが出てしまいます。
どうしても税理士に委託せざるを得ない場合は、ITを活用しましょう。
弥生販売などの「販売管理ソフト」を使えば、売上額や仕入額を日々集計することが出来ますし、一覧表にまとめることも容易です。また、Dropboxなどの「ファイル共有アプリ」を使うと、揃った資料から少しずつデータを送付することが可能です。税理士の先生に順次、仕訳処理を進めておいてもらえば、最小のタイムロスで試算表が手に入りますね!
2.帳簿をきちんと読み込むこと
試算表や決算書がリアルタイムで手に入っても、きちんと読みまなくては宝の持ち腐れです。
損益計算書と貸借対照表を読み込めば、経営上の課題が見えてきます。
例えば次のような感じです。
業績管理
- 試算表の場合、目標売上高に対する月次進捗状況はどうか?(目標と実際の乖離はどうか? 目標売上に繋がる活動[KPI]の達成状況はどうか?)
安全性
- 現預金は十分にあるか?(現預金が月商の3か月分以上あるか? 資金繰りに駆け回っていないか?)
- 損益分岐点売上高・収支分岐点売上高はいくらか?(最低限必要な売上高はいくらか?)
- 安全余裕率(経営安全率)は何%か?(現在の売上は、必要売上高をどの程度超えているか)
- 十分なキャッシュ・フローを生み出せているか?(事業の儲けで借入金返済を賄えているか?)
- 借入金は多すぎないか? 必要なときに貸してもらえる「借入れ余力」はあるか?
収益性
- 利益は出ているか?(営業利益率や経常利益率は何%か? 同業他社と比べて収益性が低くないか?)
- 製造原価・売上原価は適正か?(同業他社と比べて、原価が高すぎないか? 効率が低い業務はないか?)
- 粗利益率は十分か? 値付けは安すぎないか?
- 販売管理費 及び 一般管理費はどうか?(売上総利益額に対して販管費が多すぎないか? どこに経費をかけたか? 将来のために投資できているか?)
効率性
- 売上債権は過剰でないか?(不渡りの売掛金はないか? 売掛金の回収サイトは長過ぎないか?)
- 在庫は多すぎないか?
- 同業他社と比べて、機械や設備は十分に活用されているか?
生産性
- 従業員一人あたりの生産性・付加価値は十分か?(従業員一人あたりの利益/付加価値は、同業他社と比べて低くないか? 給料を十分支払えるだけ利益が出ているか?)
などなど、確認すべきポイントはたくさんあります。
会計において「この数値が良ければ万事OK」という財務指標はありません。安全性・収益性・効率性・生産性など、多面的な観点で帳簿を読む必要があるのです。
しかし、税理士の先生は複数の顧問先を抱えていて多忙です。決算書をじっくり読み込んで経営課題を洗い出す時間がないのです。
試算表や決算書から課題をしっかり読み取り、いち早く事業運営に反映させる。そのためには、社内の人間が帳簿を読み込む必要があります。
社内の人間であれば、どの勘定科目がどんな性質の収支を示しているのかすぐに分かります。どのような対策を打つべきかも考えやすいです。
3.正確に、分析しやすい形式で帳簿をつけること
正確性について
正確性は、言い換えると「会計帳簿に不自然な操作を加えたりしない」ということです。
私たちが普段目にする決算書は、税金の計算をするために作成されています。これを「財務会計」や「税務会計」と呼びます。
一方、社内管理をするための会計を「管理会計」と呼びます。管理会計は、決算書の数値を拾って分析を行います。
会計帳簿に不自然な操作を加えると、社内管理のための会計も歪みます。
社内管理を意識しないとどうなるでしょうか。
例えば、税金を少なくするために、保険等による節税策や、税制優遇を活用することがありますね。それ自体はいいのですが、節税により決算書を歪めたことを忘れてしまうと、元の数値関係が分からなくなります。本来の費用総額や利益が分からなくなってしまうのです。
また、融資を受ける際は金融機関に決算書を提出しますね。あってはならないことですが、減価償却費を計上しない等の方法で、利益を大きく見せようとする企業もいらっしゃいます。(ちなみに、利益操作は金融機関にはバレています。心証が悪くなっているだけです) そのような帳簿操作をすれば、本当の収益性等が分からなくなりますね。
社外(税務署・金融機関)を意識しすぎると、自社の状況が見えなくなってしまうのです。
分析のしやすさについて
それでは、嘘偽りなく、正確な帳簿をつけさえすれば良いのでしょうか?
そうとは限りません。
企業は、経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を使って事業を行っています。帳簿を見れば、事業に対してどんな経営資源をどれくらい投入したので(原因)、どれくらいの利益が出たのか(結果)が分かります。
その原因と結果を踏まえて、翌年の方針を考えればいいわけです。PDCAサイクルを回すということですね。
帳簿を分析するためは、社内管理がしやすいような勘定科目や補助科目を設定しておく必要があります。
一例をあげると・・・
- 消耗品費の内訳は何か?
→工具や事務用品、定期的に支払っている費用は、補助科目を設定して年額を把握しやすくする
(可能であれば、勘定科目を分けて管理する) - 切手代(通信費)のうち、DM発送にかかった費用はどれくらいか?
→書類を送付する切手代は、売上に直接つながらない「一般管理費」。
それに対し、DM発送費は、売上を生み出す「販売費」であるから、通信費と勘定科目を分けて管理する。
などです。
帳簿作成を税理士の先生に丸投げしてしまうと、上記のようなきめ細かな管理は難しくなります。
帳簿から情報を読み取りにくければ、経営改善のポイントもぼやけてしまいます。
自社で帳簿をつけると日々数字に触れるため、コスト意識や、投資対効果の意識を高めることに繋がるというメリットもあります。
まとめ
- 帳簿を迅速につけること
→毎日帳簿づけをして、いち早く企業の状態を把握可能にする - 帳簿をきちんと読み込むこと
→社内の人間が帳簿を読み込むことで、いち早く事業運営に活かす - 正確に、分析しやすい形式で帳簿をつけること
→嘘偽りなく帳簿をつけ、社内管理しやすいように勘定科目を設定する。このことを通じて数字に関する意識を高める。
自社で帳簿をつけると、分析を前提とした記帳ができ、帳簿を見る目が肥える。
帳簿を見る目が肥えれば、読み取った結果を事業に生かせるようになる。
すると、経営が良くなる。
この流れを作っていきたいですね。
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