利益が出ているのに現預金が減るのはなぜ?(1)

貴社では、
「売上は十分あって、当期純利益も出ているのに、なぜかお金が減っていく」
という悩みを抱えていませんか?

このような話を社長さんから伺ったことは、一度や二度ではありません。

儲かっているのにどうして現預金が減ってしまうのでしょうか?

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それは、「利益」と「資金」は別物だからです。

今日は、「収支分岐点売上高」についてお伝えします。

「収支分岐点売上高」という考え方

「収支分岐点売上高」とは、誤解を恐れずに言うと
借入金を返済したあとの収支がプラスマイナスゼロになる売上高
のことです。

「収支分岐点売上高」は、最低限超えなければならないハードルです。
この売上高を下回ると、手持ちの現預金が減っていくのです。

それでは、いったいいくらの売上を上げればいいのでしょうか?

「収支分岐点売上高」の計算方法

「収支分岐点売上高」は、簡単に3ステップで計算することができます。

昨年実績から数値を拾いますので、決算書を準備してくださいね。

  • 毎年一定額の支出がある、固定的支出を明らかにする
  • 固定的支出を賄うための利益(≒粗利益)を計算する
  • その利益(≒粗利益)を出すための利益率売上高を計算する。

計算式は、次のようになります。

収支分岐点売上高
{ (借入金返済額) ÷ (1ー実効税率) } +固定費〕 ÷ 限界利益率

それでは、計算手順を順に見てみましょう。

①「固定的支出」を明らかにする

まず、固定費変動費借入金返済の金額を明らかにしてください。
ここでいう金額は、年間総額で考えてくださいね。

①固定的支出 = 借入金返済額 + 固定費

(変動費は、ステップ③で使います)

固定費と変動費

企業を運営していくためには、様々な経費(費用)がかかりますよね。
固定費変動費です。

  • 固定費
    売上高や生産量の度合いとは関係なく、一定額が発生する費用。

    例:給料、家賃、租税公課、借入金の利息など。
    (損益計算書の「販売費及び一般管理費」以下に含まれていることが多い)

    ※減価償却費は固定費の一種ですが、今回は計算を簡単にするため、除外してください。
  • 変動費
    売上高や生産量に応じて増減する費用。

    例:原材料費、荷造運賃、残業代、販売手数料など
    (損益計算書の「製造原価報告書」に含まれていることが多い)

厳密には、固定費に変動費的要素が含まれていたり、その逆もありえます。
ですが、今回の目的は「必要売上高の概算を知ること」です。費用の分類については、おおまかに捉えて大丈夫です。

分類が気になる方は、中小企業庁方式を参照すると便利です。

借入金の返済額とは

借入金を返済するときの支出も、2つに大別されます。
元金利息です。

借入金の返済額」とは、元金の返済額だけを考えてください。

  • 元金
    借りたお金(負債)の返済額。
    借りたものを返しているだけなので、固定的支出ではあるが固定費(費用)ではない
  • 支払利息
    お金を借りる対価として、支払う利子。固定費に含める。

元金と支払利息は、負債と費用です。取り扱いが異なりますので、分けて考える癖をつけておきましょう。経営者としてのレベルが高まりますよ。

②固定的支出を賄うための「利益」を計算する

次に、固定的支出を賄うための「利益」を計算します。

法人税等を考慮しよう

法人税等とは、会社の利益に応じて課税される法人税、法人住民税、法人事業税のことです。

借入金は、課税後の利益から返済しなければなりません。そこで、(1ー実効税率)で借入金返済額を割り戻して、必要な利益額を求めます。たとえば、実効税率が30%ならば、返済額を70%(0.7)で割ります。

②必要な利益額
={ (借入金返済額) ÷ (1ー実効税率) } + 固定費

③必要利益を出すための「売上高」を計算する

最後に、必要利益を出すための「売上高」を計算します。

③収支分岐点売上高
= ②必要な利益額 ÷ 利益率

=〔 { (借入金返済額)÷(1ー実効税率) }+固定費 〕 ÷ { (売上高-変動費) ÷ 売上高 }

{(借入金返済額)÷(1ー実効税率) } +固定費〕 ÷ 限界利益率

※(売上高ー変動費)の結果を「限界利益」と言います。何が限界なのかは話すと長くなります。そういう用語だと覚えてください。

長々とした計算式ですが、考え方は単純です。

売上高に利益率をかけると、
売上高 ✕ 利益率 = 利益額
という計算式になりますね。

これを変形させると、
売上高     = 利益額 ÷ 利益率

になります。
収支分岐点売上高の計算式は、そのような構造になっています。

これで貴社は、最低限、いくらの売上高を上げる必要があるのか分かりました。

なお、貴社に法人税法上の繰越欠損金が残っている場合は、税金を考慮する必要がないため、下記の式で求めることになります。

収支分岐点売上高 ※繰越欠損金が残っている場合

固定費 + 借入金返済額 〕 ÷ 限界利益率

これだと計算が簡単ですね。

売上高が足りていても、資金が不足することはある

もし「収支分岐点売上高」を確保できていても、喜ぶのはまだ早いです。

売上は十分に確保しているのに、どんどん資金が減っていくことがあります。なぜかというと、売上拡大期には運転資金が必要なことが多いからです。

次回は「運転資金」について取り上げます。

>>次回に続く

この記事を書いた人

林 めぐみ
林 めぐみ
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級

得意な業種:製造業・卸売業  得意なテーマ:経営全般・財務・IT

IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。

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