経理ってどんな仕事?と聞かれたらどう答えますか
「経理とはどんな業務ですか?」と尋ねられたら、あなたはどう答えますか?
目次
経理の仕事を挙げてみる
経理の仕事、と言われて思いつくものを挙げてみましょうか。
- 請求書の発行
- 仕入代金や経費の支払い
- 経費精算
- 仕訳入力
- 決算書作成
- 手形や小切手の管理
- 給与計算
- 資金繰り
etc…
これらをまとめると、「会社のお金について記録や計算し、管理をする人」ということでしょうか。
それでは、5W1Hの視点で考えてみると、いかがでしょうか。
- 【When】いつ管理をするか
- 【Where】どこで管理するか
- 【Who】誰が管理するか
- 【What】お金に関する何を管理するか
- 【Why】なぜ管理するか
- 【How】どのように管理するか
このような視点を盛り込もうとすると、
「経理とは、〇〇をするお仕事です」と言い切るのは、意外と難しいですね。
私なら、「経理」を次のように整理します。
【What】何を | 業績や財務情報(損益や収支等)を |
【Why】なぜ | 社内外に報告し、経営に役立てるために |
【Where】どこで 【Who】誰が | 社内の経理担当者と、社外の税理士が力を合わせて |
【How】どのように | 経済産業省「経理・財務スキルスタンダード」で定義される 29分野の業務(中小企業は19分野)で |
【When】いつ | ・狭義の経理で「現在」を処理し、 ・会計で「過去」を集計・分析し、 ・財務で「未来」を計画するための資料を作成する。 |
以下、一つずつ説明しますね。
経理とは何か
まず、経理には、広義と狭義の定義があると考えます。
【How】どのように[具体的な業務内容]
狭義の経理
狭義の経理とは、請求・支払い・手形管理・現預金管理など、事業の入出金に関わる業務を指します。特に小規模企業の場合、「経理の業務」と言われたら、この定義が思い浮かぶのではないでしょうか?
広義の経理
一方、広義の経理とは何でしょうか?
平成15年に経済産業省が作成した「経理・財務スキルスタンダード」という業務マップがあります。
それによると、経理業務は18分野、財務業務は11分野、合計29分野の業務があるとされています。
筆者は、これらの29分野をまとめて「広義の経理」と呼んでいます。
(なぜまとめるかと言うと、スキルスタンダードには「会計」という区分がなく、直感的ではないためです。また、中小企業では経理・会計・財務のすべてを経理担当者が担うことも少なくありません。そこで筆者は、これらをまとめて「広義の経理」と呼んでいます。)
スキルスタンダードは大企業向けに作られています。
不要な業務を除くと、中小企業にとっての「広義の経理」は19分野になります。
以下、単に「経理」と表記するときは、
経理・会計・財務を含めた「広義の経理」を指します。
【When】いつ[時間軸]
では、経理の時間軸を考えてみましょう。
経理は、「現在・過去・未来」のお金について記録・集計・分析をして、管理をします。
- 狭義の経理で「現在」を処理し、
- 会計で「過去」を集計・分析し、
- 財務で「未来」を計画するための資料を作成する
と考えると分かりやすいと思います。
「経理」で処理した情報を「会計」で集計し、「財務」での計画に生かします。
【Why】【What】なぜ・何を管理するか[目的・対象]
では、経理を行う目的は何でしょうか?
それは、財務情報や業績情報を社内外に対して報告し、経営に役立てることです。
そもそも「経理」を辞書で引いてみると、
会計・給与に関する事務。また、それを処理すること。
出典:デジタル大辞泉(小学館) https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E7%B5%8C%E7%90%86/#jn-67171
とあります。
また、「会計」も辞書で引いてみると、
金銭の収支や物品・不動産の増減など財産の変動、または損益の発生を貨幣単位によって記録・計算・整理し、管理および報告する行為。また、これに関する制度。
出典:デジタル大辞泉(小学館) https://dictionary.goo.ne.jp/word/%E4%BC%9A%E8%A8%88/#jn-35667
と出てきます。
なぜ財産変動や損益発生を管理・報告するかと言うと、経営管理に必要だからです。
- 社内に対しては・・・経営上の意思決定や業績管理のために情報が必要
- 社外に対しては・・・銀行などの利害関係者に経営状態を報告する必要がある
というわけですね。
このような理由から、経理では財政状態や業績情報を記録・計算・整理して報告するのです。
【Where】【Who】どこで・だれが[場所・担当者]
それでは、経理業務は誰が担うのでしょうか?
中小企業の場合、
- 社内の経理担当者
- 社外の税理士
が協力して行いますよね。
この2人が力を合わせて経理・会計・財務を管理し、経営に役立てるための資料を作るのです。
ここまで「経理」がどんな仕事なのかを整理してきました。
この記事を読みながら、「そんな事は考えたこともなかった」「うちの会社はそんな事はできていない」という思いを持った方もいるでしょう。
一般的な中小企業、特に小規模企業の実態はどんな感じでしょうか?
小規模企業の「経理の実態」
ここで、経理の実態に関する統計をご紹介します。
『2018年度 小規模企業白書』によると、小規模企業の約6割が会計ソフトを使っていません。これは由々しき事態です。経営に役立てるために財務・業績情報を管理するべきだと思っているならば、このような結果にはならないはずです。
社長や金融機関の認識
実際に、小規模企業の社長とお話してみると、
- 「お金の管理は、経理担当者と税理士にまかせています」
- 「設備投資は、経理と相談しています(ので万全です)」
とおっしゃる方が目立ちます。
また、金融機関の渉外担当者から
「業績悪化で借入金返済が滞ったときは、経理担当の方にも同席してもらって、社長と今後について話し合います」
と聞いたこともあります。
経理担当者は、社長や金融機関から、会社のお金に関して全幅の信頼を寄せられているということですね。特に、社長の奥様が経理を担当している会社だと、その傾向が顕著だと感じます。
経理担当者の本音
一方、経理担当者にお話を伺うと、
- 「私は、入出金管理や請求・支払い(狭義の経理)だけやっています」
- 「会計は税理士におまかせしていて、私はよく分かりません」
- 「決算書の良し悪し(読み方)は、分かっていません」
- 「私は、社長に言われたことだけやっています(報告は依頼されていません)」
とおっしゃる方がとても多いです。
経理本人は、不安を抱えながら手探りで「経理」を担当しているのに対し、社長や金融機関からは非常に頼りにされている・・・。
どうしてこのようなギャップが生まれてしまうのでしょうか?
誰も「経理」をよく分かっていない
原因は、社長も、税理士も、金融機関も、経理担当者でさえも、「経理」がどんな業務なのか よく分かっていないことです。
目的があいまい
まず、多くの人が「経理の目的」を誤解している点が挙げられます。これは仕方のないことだと思います。「経理とはこういうものである」と教わった人は少ないでしょう。
「狭義の経理」の目的は、事業の入出金を滞りなく処理・管理することです。
では、「会計」の目的は何でしょうか?
上記でも書いたとおり、本来は「経営に役立てるため、財務・業績情報を報告すること」でした。しかし実際に社長に尋ねてみると、「え?税金の計算をするためですよね?」「決算書を作って銀行に見せるためでしょ?」と仰るケースが非常に多いのです。
ここを履き違えると、経理担当者への指示内容が変わってしまいます。納税期限までに計算が間に合えば良いため、日々の会計処理は経理担当者のペースで行われることになります。もしかしたら毎月の試算表は作られなくなるかもしれませんね。あるいは、会計は税理士に全て任せて、納税額の連絡だけを受けている企業もあるかもしれません。こうなると、日々の経営判断に試算表や決算書を生かすことは難しくなってきますね。
そんな状況の場合、「財務」はどうなるでしょうか? 「事業の入出金」や「税金計算」、「銀行への報告」だけを行っていればOKだと思っている状況、ということです。「未来の計画」のための資料作りを経理担当者に指示する、とは考えにくいですよね。経理担当者もそんなつもりはありませんから、何の資料も準備もしていないはずです。
全体像があいまい
次に、経理の全体像があいまいな点も問題です。
私の体験談を話します。かつて私が経理に任命されたとき、前任者からの引き継ぎが不十分なまま、現場に放り出されました。困った私は、経理実務について本を読んだりインターネットで調べたりしました。でも、本によって書いてある業務範囲が微妙に違うんですよね。また、今振り返ると「未来の計画」については軽く触れる程度の本が多かったです。
社長からは「経理はまかせた」としか言ってもらえず、本を読んでもよく分からない。
そんな経営担当者は、私だけではないはずです。
経理担当者本人ですら、経理の全体像がよく分かっていないのです。他の人が分かるはずがありません。
スキルについて誤解がある
さらに、経理に必要なスキルに関する誤解があります。
- 請求書を作成するスキル
- 債権・債務を管理するスキル
- 仕訳処理をする(決算書を作れる)スキル
- 決算書を読むスキル
- 資金繰りのスキル
- 投資判断のスキル
上記は、すべて異なる知識や能力が必要になります。
特に、「決算書を作るスキル」と「決算を読むスキル」が別物だ、とお話すると驚かれる方が多いです。
誰も「会社のお金」を管理していない恐怖
ところで、あなたは会社にとって、どのような立場でしょうか?
- あなたが社長さんなら、
- 会社のお金に関しては、経理に一任しているから安心だ。
- 設備投資の際は、経理に判断を仰いでいるから大丈夫だ。
- 経理担当者は、決算書や資金繰りが読める人だ。(だから何かあったら教えてくれる)
- あなたが経理担当の方なら、
- 私は決算書を読めないけれど、社長や税理士は判断できるんでしょう。
- 会計(決算)は、税理士が勝手に仕上げてくれるものだ。
- 設備投資は、社長が見通しを立てているから、大丈夫なんだろう。
このような思いを持っておられるかもしれませんね。
そしてあなたは、今、背筋が冷たくなっているのではないでしょうか。
貴社のお金を誰も管理していない恐れがある、と思い至ったのではありませんか。
貴社では、皆が皆に対して「誰かが管理してくれているのだろう」と思ってはいませんか?
<責任の所在があいまいな例>
皆が皆、「この人が最終責任を負っているのだろう」と勝手に思っていては、会社の発展には繋がりません。みんな一生懸命にやっているのに、そんなのもったいないですよね・・・。
業務の責任範囲を明らかにする
「お金の責任の所在があいまい」という問題の解決方法はシンプルです。
【誰が】【何を】担当しているのか等、を 社長と経理担当者 で話し合って再確認してください。
例 | |
---|---|
誰が | 社長、経理担当者、税理士など |
お金に関する 何を担当しているか | ・狭義の経理、会計、財務 ・処理、集計、業績分析、報告、投資判断など |
いつまでに | ・毎月、四半期、年1回、納税期限までに、必要に応じて ・事後に(1ヶ月以内に)、即時に、事前に(1ヶ月先、3ヶ月先 、6ヶ月先)など |
どんな資料で | 試算表、決算書、売上推移表、資金繰り表、投資の収支計画、など |
どんなに小さな会社でも、構成員が2人以上いれば、組織と言えます。組織は、業務を分業化し、各人の責任に応じた権限を与え、社長は戦略的意思決定(非定型業務)に専念してこそ、強い組織になります。
生産を従業員さんに指示するとき、「製造はよろしく~」なんてゆるい頼み方はしませんよね。生産計画に基づいて、製品や工程を具体的に指示して、製造してもらいますよね。
経理だって同じことです。
まず、経理とはどういうものかを確認しましょう。社長より経理担当者の方が詳しいこともあるでしょうから、優しく知識を共有してください。
そして、「誰が、具体的には何を担当し、いつまでに、どんな資料を社長に提出するのか」を確認しあってください。
これだけでも、『貴社の経理力』はグッと高まります。
心当たりのある方は、ぜひ社内で話し合ってみてください。
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この記事を書いた人
-
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級
得意な業種:製造業・卸売業 得意なテーマ:経営全般・財務・IT
IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。
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