どうやって値上げに踏み切ればいい?

石油、食料品、半導体、木材、樹脂、鉄鋼・・・。

2021年は、原材料の高騰で頭を抱えた経営者の方も多いと思います。過去に経験したことのないほどのコストアップで、販売単価の値上げに踏み切らざるを得ない会社がほとんどだと思います。

とはいえ、値上げで顧客企業が離れてしまったらどうしよう。転注されてしまうかもしれない。
そんな不安もあるでしょう。

どうすれば円満に値上げをすることができるのでしょうか。

BtoB(企業向け)で製造販売をされている企業のケースについてお話します。

円満に値上げをする方法

結論から言うと、円満に値上げをするためには、十分な下準備が必要です。

顧客の立場で考えてみてください。突然値上げを宣言されても困りますよね。従来の価格で売ってくれる別の業者を探すのは当然です。

値上げを成功させるには、顧客が値上げを飲まざるを得ない状況を作っておく必要があります。

1.業界全体が値上がりしていることを示す

まず、値上げが自社だけではないことを知ってもらいましょう。

業界団体が取引適性化のために、原材料高騰に関する文書を発行している場合がありますよね。例えば日本鋳造協会の場合、スクラップ価格の高騰により恒久的に鋳物価格が高くなってしまうことを訴えています。

このような文書があれば、貴社の値上げの説得力が増します。業界全体で値上げが起こっているのだと示せますから、他社に転注しても無駄だと暗に知らせることも出来ます。

出所:日本鋳造協会「スクラップ高騰による会長名文書(2通)の緊急発行について」
https://foundry.jp/kaiin-news/%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%97%E9%AB%98%E9%A8%B0%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E4%BC%9A%E9%95%B7%E5%90%8D%E6%96%87%E6%9B%B8%EF%BC%882%E9%80%9A%EF%BC%89%E3%81%AE%E7%B7%8A%E6%80%A5%E7%99%BA/

2.値上げの根拠を数字で示す

次に、値上げは数字で根拠を示しましょう。

もう一度、顧客の気持ちになってほしいのですが、値上げされる側としては「値上げ幅は最小であってほしい」と思うものですよね。また、企業努力をしたのか? 便乗値上げではないのか?と勘ぐる方がいるかもしれません。

ですから、何の項目が何%コストアップしたか(だからその分を価格転嫁させてください)と数字で示せば説得力が出ます。

  • 製造業の場合: 材料費、労務費、製造経費、その他管理費

などに分けて示せると伝わりやすいです。

これを自社から見れば、どれくらい値上げをすれば経営が成り立つのかを計算する、ということになります。

コラム:下請法をご存じですか

顧客が下請法の対象であるかを確認してみてください。顧客企業の資本金が1千万円を超えている場合、下請法上の親事業者に該当する可能性があります。

下請法によると、自社の企業努力では吸収しきれないコスト増分の場合、下請法上の親事業者は価格転嫁を拒否してはいけないことになっています。

出所:中小企業庁「価格交渉事例集」
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/2017/170127support.htm

中小企業庁が「価格交渉ノウハウ・ハンドブック」を公開していますので、ぜひご覧ください。

3.日頃から、自社の強みを顧客へ発信し続ける

そうはいっても、日常的な努力も必要です。
日頃から「当社から買う必要性」を訴えておきたいです。具体的には、自社の強みを発信し続けましょう

自社の優位性(強み)を顧客に伝えている企業は、その優位性を価格に反映できている割合が高い、という統計があります。自社の加工や製品・サービス、サポートなどの強みを理解してもらえば、その分高い値段がつけられるということですね。自然と、値上げもやりやすくなると考えられます。

優位性を伝える際には、「製品・サービスのネーミング」、「書面による詳細な解説」、「数値を用いたPR」などが有効です。

出所:2020年度 中小企業白書
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2020/chusho/b2_2_1.html

自社の優位性とは、「他社にはできないが自社ならできること」という意味です。
といっても背伸びをする必要はありません。現在取引がある得意先は、貴社になんらかの「価値」を感じているから取引しています。その価値の源泉となるのが優位性です。自社の強みを知る方法は、以下の記事で書きましたのでご覧ください。

最終手段:ちゃぶ台をひっくり返す

ここまで、値上げを成功させるための下準備についてお話しました。
しかし、完全に円満な値上げなどありえません。多かれ少なかれ、何らかの摩擦は起きるものです。

社長だって悪気があって値上げをするわけではありませんよね。
そうしなければ事業が成り立たないから、苦渋の決断としての値上げであるはずです。

そんな状況の中、もしコストアップを黙って耐えたとしても早晩、経営は傾くでしょう。

対策をしたうえで値上げに難色を示されてしまった場合は、覚悟を決めてちゃぶ台返し=値上げを断行することも検討してください。

私が見てきた経験で恐縮ですが、値上げをしても意外と大丈夫なものです。(もちろん、欲を出してはいけませんが)

2割の優良顧客がいれば大丈夫

ご存じだと思いますが「パレートの法則」ってありますよね。

「顧客全体の2割である優良顧客によって、売上の8割が作られている」という法則のことです。

つまり、優良顧客である2割の得意先と取引を継続できれば、8割の売上は残る、ということです。仮に、細かな8割の得意先が離れてしまったとしても、大きな2割の顧客が残り、売上が8割残れば、なんとか事業は成り立つと思いませんか。そして多くの場合、2割の優良顧客は貴社に価値を感じているから、値上げを飲まざるを得ないのです。

合わないお客様と無理に付き合えば、お互い不幸になる

お客様が離れるのは、一見悪いことに思えますが、実はメリットもあります。

貴社が今、「忙しいだけで全然儲からない」と感じているなら、値上げによってその体質が変わる可能性があります。値上げによって、「貴社が安いから注文しているだけの顧客」とのご縁が切れる可能性があるからです。

貴社には貴社のいいところ(強み)があります。その価値を感じてくれるお客様のために時間や労力を注いで、最大の価値や生産性を実現するべきだと思いませんか?

極論ではありますが、価格面で折り合わないお客様にしぶしぶ買ってもらう必要はありません。貴社はバタバタして全然儲からず、取引先はブーブーで、優良顧客にも迷惑がかかって、みんな不幸になっていませんか? 適材適所という言葉がありますよね。これは取引にも当てはまることです。企業だって「向いていること」「合うお客様」に力を注ぐべきです。

日本には360万社の企業があります。貴社と折り合わないお客様は、別の合う企業から商品を買ってハッピーになったらいいですよね。そうしたら貴社はハッピー、優良顧客の得意先もハッピー、さよならした取引先もハッピーです。みんながハッピーになれて素晴らしいと思いませんか。

値上げは、お客様との関係を見直す機会にもなります。

変化は悪いことではありません。事実を見つめて、貴社が発展できる値上げを検討してみてください。

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この記事を書いた人

林 めぐみ
林 めぐみ
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級

得意な業種:製造業・卸売業  得意なテーマ:経営全般・財務・IT

IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。

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