利益が出ているのに現預金が減るのはなぜ?(2)

前回、現預金が減るのは「収支分岐点売上高」というハードルを超えていないためではないか、という話をしました。
しかし、十分に売上高を確保できていても、現預金が減ることがあります。
それは、必要な「運転資金」が増えている場合です。
そもそも「運転資金」とは何か
「運転資金」の定義をご存じでしょうか?
「銀行口座に入れておく現預金」を指す方もいますが、財務上は少し違うものを指します。
運転資金とは:
経営を行うにあたって必要な資金のこと。経常運転資金、正味営業運転資金とも言う。
計算式:
運転資金 = (売掛金+受取手形+棚卸資産)-(買掛金+支払手形)
つまり、商取引を行ううえでお金が寝てしまうために、必要な資金のことです。

たとえば、
- 売上がお金に変わる前は・・・売上債権(売掛金や受取手形)
- 販売する前は・・・・・・・・棚卸資産(商品在庫や原材料在庫など)
の状態で存在しますよね。この状態を「お金が寝てしまう」と考えてください。
一方、買入債務(買掛金や支払手形)は、一定期間は支払いを猶予されており、一時的にお金を手元に置いておける状態です。
上記をまとめると、
(ある時点で寝てしまう金額)-(ある時点で支払いを猶予されている金額)
= 差し引きで寝てしまう金額 ←これが運転資金
ということです。

事業を営んでいるかぎり、常に新たな売上債権や棚卸資産、買入債務が発生し続けます。すると常時、一定額が寝てしまうことになりますね。
寝てしまう金額(お金以外の状態)が増えれば、当然、現預金は減っていきます。
運転資金を減らす方法
運転資金を減らすためには、次の5つの方法があります。
おすすめは【1】です。
- 在庫を減らす(棚卸資産を減らす)
必要在庫数を見直したり、調達サイクルや調達数量を見直すことで、商品在庫や原材料在庫が減るようにします。
(注意:調達数を減らすことでコスト増になったり、在庫不足で販売機会を逃したりしないように、バランスを見る必要があります) - 代金回収の期日を早くする(売掛金を減らす)
- 代金回収を銀行振込にしてもらう(受取手形を減らす)
回収条件をよくしてもらえないか、得意先と交渉する方法です。
代金回収までの日数が不当に長い場合は、交渉の余地があります(売掛金回収が60日超、受取手形のサイトが120日超など)。 - 仕入・購買の支払期限を長くしてもらう(買掛金を増やす)
【注意が必要です】
支払条件をよくしてもらえないか、仕入先と交渉する方法です。ですが、支払条件を悪くすると購入条件が悪くなったり、信用問題になるおそれがあります。
交渉は、新規仕入先に対してだけに留めておきましょう。 - 支払手形を振り出す
【おすすめしません】
理論上はそうなのですが、私はおすすめできません。
なぜなら、倒産リスクを高めることになってしまうからです。
万が一、当座預金残高が不足して半年以内に2度の不渡りを出すと、2年間は金融機関と当座取引や融資取引ができなくなります。現在借入金があれば、一括返済を求められる可能性が高いです。つまり事実上の倒産となります。
そんなリスクを背負ってまで、運転資金を圧縮する必要はありません。もし貴社が支払手形を振り出しているなら、段階的に廃止してほしいくらいです。
下請代金の支払条件の改善(手形支払いを現金払いにするなど)に自発的に取り組む中小企業・小規模事業者の方に対し、必要な資金を融資する制度があります。こういう制度を活用してみるのもいいでしょう。
運転資金がどうしても増えてしまうパターン
実は、どうしても必要運転資金が増えてしまうパターンがあります。
それは「売上が増加しているとき」です。
具体的には、創業間もないころや、事業の拡大期、低調期からの回復期などです。
売上が増えると、
- 売掛金が増える
- 受取手形が増える
- 在庫が増える
といったことが起こりやすくなります。買掛金などの買入債務を差し引いても、運転資金は増加してしまうことが多いでしょう。
前向きな資金不足は怖くない
売上増加時などの前向きな資金不足は、金融機関も好意的に受け止めてくれることが多いです。
金融機関に対して状況を説明し、融資の相談をしましょう。その際は、今後も売上増加が続くと証明できる資料があると良いです。
たとえば
- 得意先からの内示情報や注文書
- 業界に関するポジティブな新聞記事の切り抜き
- 競合相手の情報や、競合に勝てる要因を客観的にまとめたもの
などは、普段から準備しておくといいですね。
また、日常的に金融機関の渉外担当者と接触し、定期的に試算表を提出したり業況報告をしておくことも大切です。金融機関と密にコミュニケーションを取っていると、先方から融資の打診があったりしますよ。
まとめ
運転資金を圧縮する努力は必要です。ですが、売上拡大による運転資金増加はむしろ喜ばしいことでもあります。
売上・利益不足なのか?
運転資金が増加しているのか?
「現預金が減っている原因」を正しく認識して、対処していきたいですね。