利益が出たときに経営者が気をつけるポイント
2020年度の国の税収は、60.8兆円程度と過去最高を更新する見通しになりました。法人税は想定より3兆円ほど多かったようです。製造業を中心に業績が底堅く、携帯電話やゲーム、自動車、食品といった産業の業績が好調でした。コロナ禍の恩恵を受けられた業種は、突然利益が増えて、嬉しい悲鳴を上げていることと思います。
しかし企業にとっては、利益が出たタイミングが危ないのです。
今回は、利益が出たときに経営者が気をつけたいポイントについてお話します。
特に、経理を担当している社長の奥さまに読んでいただきたいです。
目次
気をつけるポイント
利益が出たときに気をつけるポイントは、経営資源の切り口である「ヒト・モノ・カネ」で表すことができます。
ヒト:生活水準を上げるべからず
利益が出たら嬉しいですよね。社長だって人間ですから、ちょっとくらいパーッとしたい気分になると思います。しかし、パーッとするのは祝いのお酒くらいにしておきましょう。
利益が出たからと行って、簡単に役員報酬に反映してはなりません。もし役員報酬を増やすとしても、社長の生活水準は絶対に上げてはいけません。
人間は、一度上げた生活レベルをなかなか下げることができない、と言われています。貯金を切り崩してでも高い生活レベルを維持しようとするのです。これを経済学用語でラチェット効果(歯止め効果)と言います。経済を回す意味では良いことですが、個人レベルで見るとお金がどんどんなくなるため、由々しき事態です。
従業員さんの基本給は、計画的に上げておられると思います。社長の給料である役員報酬も、単年度の利益で浮かれずに、中長期の業績を見据えて計画的に上げていくべきです。
モノ:大きな買い物をするべからず
利益が出たら大きな買い物、つまり設備投資をしたくなるかもしれません。でもここは冷静に行きましょう。
会社で、車両や機械設備等の大きな買い物をしてしまうと、数年先までローンやリース、借入金の返済が続きます。数年先まで安定的に利益を出せればいいのですが、そうでない場合は、返済が重い負担としてのしかかってきます。単年度の利益が出たくらいでは、大きな買い物を決断してはいけないのです。
安定した経営に必要なのは、いうまでもなく自己資金です。
自己資金があれば、事業上のチャレンジができます。借入金ではこうは行きません(借入金を使って事業で失敗をしたら、当然、信用問題となります)。
また資金に余裕があれば、もし経営不振になってもしばらくの間は耐えることができます。経営改善に向けた人材育成や設備投資にお金を使うことができるので、業績の回復も比較的容易になります。もし借入れが必要になっても、現預金に余裕があると返済原資があると評価され、融資が受けやすくなります。
何にせよ、まず必要なのは資金です。
経営を安定させ、継続的に利益を出せるようにするために、手元にお金を残すことを考えてみましょう。
カネ:キャッシュアウトを伴う節税策に走るべからず
「手元にお金を残す」と言うと、節税策に走る経営者の方がいます。
ここで注意して頂きたい点があります。
節税策は、中長期的に会社にお金を残す対策であることが多いのです。
例えば、貯蓄性のある生命保険をかけることを考えてみましょう。この場合、数十年単位の長期的には節税になるかもしれませんが、短期~中期的には保険料として会社からお金が出ていくことになります。
単年度の税金を減らして手取りを増やしたいのに、キャッシュアウトして経営が苦しくなっては意味がありません。また、短期間で生命保険を解約すると元本割れしますから、節税策を取った意味がなくなってしまいます。
このように、あわてて節税しようとすると、経営が苦しくなったり損をすることがあります。
決算月が近くなると、保険会社から「損金計上できる保険があります」などと勧誘の電話がかかってきたりしますが、飛びつくと痛い目を見ますから注意が必要です。
なお、税金を払いたくないために、経費を使い込むのはもってのほかです。まず(当然ですが)お金が減ります。さらに、冗費を許容する社内文化に繋がってしまい、中期的に影響が残るおそれもあります。経営者が経費を使い込んでいると知れたら従業員の士気だって低下します。不要な経費を使おうとするのは絶対にNGです。
ではどうすればいいの?
役員報酬を上げず、大きすぎる投資を控え、大きなキャッシュアウトをしてはいけない・・・。
そのうえで、手元にお金を残すためにはどうすればいいのでしょうか?
知的資産への投資を検討してみる
まず、「知的資産」への投資を検討してみましょう。
ヒト・モノ・カネとは異なり、知的資産は形のない経営資源です。経営資源の要素は、ヒト・モノ・カネ・情報、と聞いたことはありませんか? その4つ目の要素「情報」にあたります。無形資産ということもありますね。
従業員が持つ技術や能力、顧客からの信頼やブランド力、顧客情報や販売ネットワーク、5Sやコミュニケーション力などの組織力、特許や商標権等の知的財産権など、「物的な実態はないけれど、経営上で無くてはならない資産」を指します。
知的資産は、
- 作り上げるために時間がかかる
- モノと違って使っても減らず、一度に多重利用できる
という特徴があり、企業の競争力の源泉となります。
中小企業は、大企業と比べて資金力に限りがあります。特に、小規模事業者が企業競争の中で生き残るためには、この「知的資源」をフル活用する必要があります。
知的資産への投資は、効果が出るまで少し時間がかかる代わりに、投資額が比較的少なくてすみやすく、一定の成果が期待できます。
もし利益が出ていて資金的に余裕があるなら、知的資産の充実に向けて投資することを検討してみましょう。具体的には、従業員の技術研修や、営業活動、顧客との関係性強化、社内システムの整備による組織力の強化などです。
投資の際は、貴社の良さを損なわないように注意してください。いま利益が出ているのは、貴社に強みがあるからです。その強みを活かすようにお金を使うなら?という視点で考えるといいでしょう。
参考リンク:
税制優遇と所得控除を使い切る
次に、使える税制優遇があれば使い切りましょう。
中小企業庁のWEBサイトから、中小企業税制のパンフレットを見ることができます。少額減価償却資産の特例や、中小企業経営強化税制は有名ですね。
外部リンク:中小企業税制パンフレット(令和2年版)
会社と経営者を一体として見るならば、経営者個人の所得控除も活用できます。きちんと計算をすれば、役員報酬を増やしたうえで税負担を軽減することが可能です。具体的な話はケースバイケースですので、顧問税理士やファイナンシャル・プランナーにご相談ください。
それでも利益が残ったら
それでも利益が残るなら、それは、納税するにふさわしい利益です。
腹をくくって法人税等を納めましょう。
そんな殺生な、と思うかもしれません。一生懸命に稼いだ利益なのに多額の税金を取られてしまうなんて、悲しいし辛いですよね。
では、こう考えてみてはどうでしょうか。
「税金さえ払ってしまえば、経営を安定・発展させるための資金が手に入る」と。
税金を払うと、節税策をとったときとは違い、税引後の利益をまるまる手元に残すことができます。短期的な資金繰りの改善に繋がりますね。
また、税引後の利益は自己資金です。借入金とは異なり、経営者の責任で自由に使えるお金です。従業員の採用や教育、設備投資の原資、借入れの際の自己資金など、あとで何に使っても構いません。
財務基盤が弱い中小企業にとって、経営環境の変化に対応できるかどうかは、死活問題となります。そのために必要な資金を、いま、手に入れることは、経営力を高めることに繋がります。
期中に納税額を試算しておく
税金は、突然取られるから拒否反応が出るのです。税金を納付することを苦しく感じるならば、顧問税理士に相談して四半期~半年ごとに納税見込額を概算で教えてもらうといいですよ。
納税額をあらかじめ予定して貯金しておけば資金的な問題はなくなりますし、心の痛みも少しはマシになります。
まとめ
事業で利益が上がると、どうしても気が大きくなりがちです。
そこで生活水準を上げたり、大きな買い物を決断したり、キャッシュアウトを伴う節税に走ってしまうと、翌年以降に資金繰りに窮することになりかねません。
知的資産に投資し、税制優遇や所得控除を最大限活用して課税額を減らし、それでも利益が残るなら、あきらめて法人税等を納めましょう。
税金さえ払えば、あとで気兼ねなく使えるお金が手元に残ります。
この感覚を身につけて必要な資金をプールできるようになると、経営が楽になってきますよ。
この記事を書いた人
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中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級
得意な業種:製造業・卸売業 得意なテーマ:経営全般・財務・IT
IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。
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