小規模企業に役立つ経営指標(安全性について)

前回の記事はこちら:

はじめに

経営指標はたくさんありますが、「この指標の数値が良ければ万事OK!」というものはありません

財務諸表を様々な指標でチェックすることで、企業の健康状態が総合的に分かります。

  • 短期的な安全性:手元資金は十分にあるか ←今回はココ
  • 長期的な安全性:無理な資金調達をしていないか ←ココ!
  • 収益性:儲かっているか
  • 生産性:従業員の給料を払えるだけ稼いでいるか
  • 成長性:業績が伸びているか
  • 効率性:資産(資本)を効率的に活用しているか

安全性分析

中小企業にとって、最も大切なことは、企業の安全性(安定性や健全性)です。

会社は資金がなければ存続できません。いくら利益が出ているとしても、資金繰りが詰まって資金ショートしてしまえば会社は倒産してしまいます。それでは他の指標がどんなに良くても意味がありませんよね。

安全性分析では、企業に財務面の体力がどれくらいあるかを計ります。分析の際は、短期と長期に分けて考えます。短期は数ヶ月〜1年スパン、長期は数年スパンをイメージしていただくと良いと思います。

短期安全性

短期安全性分析では、企業の短期的な支払能力(すぐに支払いにあてられる手元資金は十分にあるか)をはかります。

短期安全性の指標のうち、最も計算しておきたいのは 手元流動性比率(現預金月商比率)です。

手元流動性比率 [現預金月商比率とも言う]
= (現預金+有価証券) ÷売上高 ×12

一般的には、短期安全性を見るときは当座比率流動比率が使われます(下記の表1を参照)。これらの指標では、売掛金や受取手形を支払原資として計算するのですが、それらを今すぐ現金化して買掛金や短期借入金の支払いの足しに出来るか?と考えると、場合によっては無理なことがありますね。

一方、手元流動性比率(現預金月商比率)は、「仮に売上がゼロになったとき、何か月間、支払いを滞らせずに耐えられるか」が分かります。売上がゼロでも、人件費や家賃等の固定費の支払いや借入金返済の支出は必要です。ざっくりとした計算にはなりますが、それら固定支出を売上で賄っていると考えたのが、手元流動性比率となります。実際には、材料代など「売上がゼロになればなくなる費用」もありますから、少し余裕を見た指標になります。

私は、最低でも月商3か月分の手元資金を保有することをおすすめしています。

もし余裕があれば、収支分岐点売上高も計算してみてください。「借入金を返済したあとの収支がトントンになる売上高」が分かります。実際の売上高が、収支分岐点売上高を下回っている場合、現預金は減っていってしまいますから、経営の見直しが必要となります。

表1:短期安全性の指標一覧

指標 [単位] 計算式 目標 意味
当座比率 [%] 当座資産 ÷ 流動負債 100%以上が望ましいとされる 支払手形や買掛金及び短期借入金等(流動負債)に対して、現金化しやすい資産(当座比率)の割合
流動比率 [%] 流動資産 ÷ 流動負債 200%以上が望ましいとされる 支払手形や買掛金及び短期借入金等(流動負債)に対して、取引上で使う資産(流動資産)の割合
手元流動性比率 [か月]
(現預金月商比率)
(現預金+有価証券) ÷売上高 ×12 3か月分以上を推奨
関連記事 ≫
現預金が月商の何倍あるか
安全余裕率 [%]
(経営安全率)

(実際の売上高-損益分岐点売上高) ÷ 実際の売上高

※簡易的には以下の式で計算
経常利益 ÷ 売上総利益

10~20%以上が望ましいとされる 現在の売上高が損益分岐点を上回っている割合(売上高がどれだけ減っても当期純利益が赤字にならないか)
収支分岐点売上高 [円] 計算方法はこちら≫ 収支分岐点売上高を、実際の売上高が超えていること 借入金を返済した収支がトントンになる売上高(事業を継続するために、越えなければならない売上高)
手元流動性比率の目標値は、筆者独自の計算による。

安全性の指標は、貸借対照表や損益計算書の数値を使います。
関係のある項目を色で塗りました。参考にしてください。

出所:筆者作成
出所:筆者作成

 ※年間売上高÷12 = 平均月商

 

長期安全性

長期安全性では、借入れの妥当性(無理な資金調達をしていないか等)を確認します。

長期安全性の指標はいくつかありますが、小規模企業が計算しておきたいのは、自己資本比率EBITDA有利子負債倍率です。

出所:筆者作成

自己資本比率は、企業の財政状態の健全度を見るための指標です。事業運営に使う資産(総資産)を、自力(自己資本)で賄えている割合を表します。簡単に言えば、借入過多になっていないかを確認する指標です。

自己資本比率 [%] = 純資産 ÷ 総資産

純資産(自己資本)は「資本金+これまでの利益の蓄積」です。もし毎年赤字を出し続けていると純資産が減少してマイナスになってしまいます。最終的には、仮に保有資産をすべて売り払っても借金を返せない状態になります。これを「債務超過」と言います。

まずは、自社が債務超過に陥っていないか(純資産がマイナスになっていないか)をチェックしましょう。債務超過は、財政状態が明らかに不健全であることを示します。金融機関からの借入れが受けられない等の問題が出てきますので、ただちに経営改善に取り掛かる必要があります。

次に、自己資本比率が業種の平均値に達しているかを確かめます。自己資本比率は30%前後が望ましいとされることが多いですが、業種や事業規模によって目指すべき目標は異なります。TKCや政府が公表している統計を調べ、事業規模別の業種平均を参考にすると良いでしょう。

たとえば、経済産業省のローカルベンチマーク(2018年度版)によると、自己資本比率の中央値は、小規模製造業で14.8~36.1%以上、小規模卸売業で14.9~25.2%以上となっています。


一方、EBITDA有利子負債倍率は、有利子負債の返済能力を図る指標の一つです。「税引前の本業の稼ぎ(EBITDA)の何年分」で、金融機関借入金(有利子負債)を返済できるか?という意味です。

EBITDA有利子負債倍率 = (借入金総額-現預金) ÷ (営業利益+減価償却費)

EBITDA有利子負債倍率は、10倍以内が望ましいとされます。事業規模を問わない全事業の平均値は4.9倍です。(出所:法人企業統計調査/2021年10月24日日経新聞)

ただし、自社の指標が10倍以内だからといって安心はできません。EBITDA有利子負債倍率が、実際の借入金の「残り返済年数」を超えている場合、通常の返済期間で返せないほどの借入金を借りていることになります。その場合、経営改善して営業利益額を増やす必要があります。あるいは、金融機関と交渉して返済期間を延ばしてもらう(借換えや、最終手段としてリスケジュール)等の対応が必要になってきます。

表2:長期安全性の指標一覧

指標 [単位]計算式目標意味
自己資本比率 [%]純資産 ÷ 総資産【基準その1】
債務超過(純資産額がマイナス)ではないこと

【基準その2】
規模別・業種別平均より高いこと。
・小規模製造業は14.8~36.1%以上
・小規模卸売業は14.9~25.2%以上
総資産のうち、自己資本で賄っている割合
EBITDA有利子負債倍率
[倍または年]
(借入金総額-現預金) ÷ (営業利益+減価償却費)10倍以内が望ましいとされる税引前の本業の稼ぎで、実質借入金を何年で返済できるか?という理論値
自己資本比率の目標値は、経済産業省ローカルベンチマークの中央値より引用した。
EBITDA有利子負債倍率の目標値は、事業承継特別保証制度の条件を参考とした。
出所:筆者作成
出所:筆者作成

次回:収益性について

この記事を書いた人

林 めぐみ
林 めぐみ
中小企業診断士
経理・財務スキル検定 レベルA
日商簿記2級/基本情報技術者/FP2級

得意な業種:製造業・卸売業  得意なテーマ:経営全般・財務・IT

IT企業でのシステム運用を経て、小規模製造業の取締役を11年間経験。3代目後継者である夫のビジネスパートナーとして尽力し、経営企画からバックオフィスまで幅広い経験を積む。小さな会社でもできるIT活用や財務管理など、実践的なアドバイスが得意です。貴社の「明日の一手」=「あすのて」を導きます。

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